さて、走ることについていちおう書いておきます。実際のところこれについては特に書くべきこともないのですが。
というのもここではいろいろなものがシンプルだからです。
例えば色。目につく色は基本的に三色。
空は青く、地面は赤い。
360度見渡す限りすべて真っ赤な地平線で、その線より上は青。
下は赤。
青いのが空があるほうで、赤いのが地面があるほう。実にわかりやすい。さて、そこに一本の黒い線がある。こいつが道路で、これはあきれるほどまっすぐ北に伸びているわけです。実にシンプル。もしあなたが三つ以上何かを覚えられないアホだったとしても何も心配はいらないわけです。ここには三つ以上に複雑なことは何もないですから。
またあるいは一日も同じくシンプル。
朝が来る。太陽が右から昇って、やがて正面の頭上高くにとどまり殺人的な日射を遠慮なく降り注ぎ続ける。こいつがもう延々と30時間は続いたんじゃないかというくらい絶望的に長く降り注ぎ続ける。そしてもう勘弁してくれ、ゲロ吐いちまうぜ、まじでよ、と思ったくらいで左手に落ちていく。するとあら不思議、一日が終わっている、というわけです。
必要なものは水とガソリンと食料だけ。
保険料の支払いや、税金やら何やかやのことは一切考える必要がない。価値もない。ここで価値があるのは、水だし、ガソリンだし、命をを保証するのはさっきからずっと圏外の複雑な構造のスマホではなく、インジェクションのバイクなわけです。自分が日ごろよりかかっている、高度で、便利で快適な、僕の愛する消費社会が提供してくれている価値が全く通用しない環境で生きるということは、これはひとつ素晴らしい体験でもあります。
砂漠の中で最もうまい飲み物はまず間違いなく水で、乾燥しきった空気の中を数百キロ走り抜けてありついた水はもう本当に、でたらめにうまい。こいつがよく冷えていたりしたら最高で、これを飲むためだったらロードハウスのひげもじゃのおっさんの靴の裏だって僕は舐めるでしょう。
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