この親父にであうまで、僕は今回の旅行では可能な限り中国人民との接触を避ける、可能な限り金をこの国に落とさない、というのを誓っていました。初めてこの国を旅行した時に、いく先々で出会ったあらゆる人々からあらゆる手段で金をふんだくられ、ぼったくられ、巻き上げられたからです。それこそ三回分くらいは中国が旅行できたでしょう。というわけでその分を取り戻すまでは絶対に余分な金を落とさないときめたのです。そして今回はまだ三回目なのでその誓いを固く守り抜こうとしていたのです。ですが親父の笑顔や親切に接しているうちに自分はなんて小さな人間なんだろう、と思いました。この親父だって途上国の安い賃金で働いて家族養ってるんだ、先進国の人間がちょっと騙されたくらいでいちいち何言ってんだ、と。
僕は自分の立てた誓いを恥じました。この国の方々に対する自分の非礼を心の中で詫びました。なんて自分は器の小さい人間だったのだろうと思いました。そしてこれからは、まず相手が悪い、でなく自分の非も認められる立派な人間になろうと思いました。そうおもうと心が軽くなっていきました。生まれ変わったような気分でした。僕はオヤジの屈託のない笑顔と、歯垢まみれの黄ばんだすきっ歯と、好き勝手に飛び出る鼻毛を思い出し、それに引き合わせてくれた神に感謝しました。そしてその2時間後にわかるのですが、この親父、クッソぼったくってました。
もう二度とこの国に金なんざ落とさねえ、と決意を新たにしました。
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